一部、大学の基礎的な話がベースになりますが、極力、高校生でも理解できるように、わかりやすくかみ砕いて砕いて導出の過程を解説します。これを理解いただけると「なぜ風が吹くのか?」などの身近な現象を解釈できるようになります。
「運動量保存」て聞くと身構えてしまいますが、要は「力の釣り合い」です。
運動量保存の出発点
これは、最初から式をベースに解説した方が早いので、先ず次イラストと運動量保存式を見てください。質量保存式と同様に検査面と体積を考えます。
高校物理で\(F=ma\)って習ったの覚えてますか?上記の式はそれをベースにしています。(上記の式は\(ma=F\)の並びになってます、ごめんなさい)
高校物理の\(a\)は加速度なので、表現を変えると\(a=\frac{dv}{dt}\)となり速度を時間で微分した形になります。
両手を合掌してそれぞれ同じ力で押してください。動かないですよね?だって、同じ力で押しているから力が釣り合っているんです(上式の右辺の合算がゼロ)。動かない=速度がゼロから変わらない=加速しない、という事なんです。
では、右手の方が強く押したら掌は左に動きますよね?力が釣り合っていない分は(上式の右辺の合算がゼロじゃない)、加速分に使われるんです。
風が流れる直感的理解
理解を簡単にするために定常流れ(時間で変化しないこと)にしますので、\(\frac{d}{dt}(mv)=0\)と置いちゃいます。そして、「検査面の圧力差=」の形に直すと
\[Ap-A’p’=G(v’-v)-(\frac{\displaystyle p_s+p_s’}{\displaystyle 2})S-τ_s S-(ρgV) ・・・(1)\]
となり、「圧力差により運動量が増える(空気の流れが生じる)」事が直感的に理解できると思います。その他の項(主に境界の圧力)がロケットで言う推力として現れたりします。
微分方程式化とオイラーの運動方程式の導出
微分方程式を見るとなんだか難しい事をやってるな、と食わず嫌いの方もいらっしゃると思います。その導出の過程をこういったベーシックな題材でご理解いただけたら幸いです。
単位時間当たりの運動量の変化 \(\frac{d}{dt}(mv)\)
これは「検査体積で区切った微小な流体の塊の運動量(\(mv\))」の「時間変化(\(\frac{d}{dt}\))」を表しています。「質量\((m)\)」を「密度\((ρ)\)×体積\((A\cdot ds)\)」に分解すると次のようになります。
\[\frac{\displaystyle\partial }{\displaystyle\partial t}(ρvAds) ・・・(2)\]
単位時間当たりの運動量の流入出 \(G(v-v’)\)
最初に説明を端折っちゃいましたが、「単位時間あたりに検査面から流入する運動量\(mv\)」は、\(Gv\)と表されます。mの単位は[kg]、Gの単位は[kg/s]ですので、単位も見ると直感的に理解できると思います。では、これを連続の式も活用して変形すると次のようになります。
\[Gv=(ρvA)v=ρv^2A ・・・(3)\]
単位時間あたりに検査面から流出する運動量\(Gv’\)は同様に次の様になります。
\[Gv’=(ρv’A)v’=ρv’^2A ・・・(4)\]
ここで、流入面から\(ds\)移動後の流出面を偏微分(傾き:変化率)を使って表現すると次のようになります。
\[ρ’=ρ+\frac{\displaystyle\partial ρ}{\displaystyle\partial s}ds ・・・(5)\]
\[v’=v+\frac{\displaystyle\partial v}{\displaystyle\partial s}ds ・・・(6)\]
\[A’=A+\frac{\displaystyle\partial A}{\displaystyle\partial s}ds ・・・(7)\]
となります。
これらを代入して合体すると、
\[G(v-v’)=-\frac{\displaystyle\partial}{\displaystyle\partial s}(ρv^2A ds) ・・・(8)\]
となります。
検査面の圧力差 \(Ap-A’p’\)
これも流入面から\(ds\)移動後の流出面を偏微分を使って表現すると次の様になります。
\[A’p’=Ap+\frac{\displaystyle\partial}{\displaystyle\partial s}(Ap)ds ・・・(9)\]
これを積の微分公式を使ってもうちょい分解します。
\[=Ap+(A\frac{\displaystyle\partial p}{\displaystyle\partial s}+p\frac{\displaystyle\partial A}{\displaystyle\partial s}) ds ・・・(10)\]
境界面の圧力 \(\frac{1}{2}(p_s+p_s’)S\)
圧力により境界面に働く力のうち、流れ方向の成分は次の様に置き換えられます。
\[\frac{1}{2}(p+p’)(A’-A)=p\frac{\displaystyle\partial A}{\displaystyle\partial s}ds ・・・(11)\]
境界面の面積を流入面積差に置き換わっているのは、「圧力\(p\)の流れ方向成分の変換」と「境界面の流れ方向の投影面積換算(次の図)」で表現しているからです。
縮小している投影面積(マイナスの値)を無理やり表現するために、\((A’-A)\)にマイナスをつけていますが他に意味はありません。
さて、ここで③と④を足してみると次のようになります。
\[(Ap-A’p’)+\frac{1}{2}(p_s+p_s’)S=-\frac{\displaystyle\partial p}{\displaystyle\partial s}Ads ・・・(12)\]
積の微分公式を使ったのはこのようにシンプルに表現したかったからです。
境界のせん断応力 \(τ_s S\)
粘性によって壁面摩擦に流体が引きずられるイメージです。
オイラーの運動方程式は粘性を考慮しないので本来はこの項は表現しませんが、直感的に実在する流体をイメージして頂くにはあった方が良いと思い入れてみました。微分方程式化は割愛します。
重力の成分 \(ρg_sV\)
重力項は傾いていないと表現できないので、以下の図の様に角度θだけ検査体積を傾けてみました。
重力が流れに沿った方向に作用する力は次の様になります。
\[ρg_sV=-ρgAds\cdot cosθ ・・・(13)\]
\[cosθ=\frac{\displaystyle\partial z}{\displaystyle\partial s} ・・・(14)\]
したがって
\[ρg_sV=-ρgA\frac{\displaystyle\partial z}{\displaystyle\partial s}ds ・・・(15)\]
図の様に流体が斜め上に駆け上がるときは、重力に引っ張られるイメージです。
オイラーの運動方程式の導出
オイラーの運動方程式は粘性(せん断応力)を含めないため、おさらい含めて基礎式を確認します。
これを先ほどの微分方程式で表現すると、
\[\frac{\displaystyle\partial}{\displaystyle\partial t}(ρvAds)=-\frac{\displaystyle\partial}{\displaystyle\partial s}(ρv^2Ads)-ρgA\frac{\displaystyle\partial z}{\displaystyle\partial s}ds-\frac{\displaystyle\partial p}{\displaystyle\partial s}Ads ・・・(16)\]
流路断面積\(A\)と微小区間の距離\(ds\)は時間によって変わらないものとすると、\(A\)と\(ds\)は時間微分(\(\partial t\))の外に出せます。さらに連続の式\(ρvA=G\)より、同じ流線上であれば質量流量\(G\)は距離\(s\)によって変わらないので距離微分(\(\partial s\))の外に出せます。したがって、
\[Ads\frac{\displaystyle\partial}{\displaystyle\partial t}(ρv)=-ρvA\frac{\displaystyle\partial v}{\displaystyle\partial s}ds-ρgA\frac{\displaystyle\partial z}{\displaystyle\partial s}ds-\frac{\displaystyle\partial p}{\displaystyle\partial s}Ads ・・・(17)\]
流路断面積\(A\)、距離\(ds\)は全項にかかっているので消してあげると、
\[\frac{\displaystyle\partial}{\displaystyle\partial t}(ρv)=-ρv\frac{\displaystyle\partial v}{\displaystyle\partial s}-ρg\frac{\displaystyle\partial z}{\displaystyle\partial s}-\frac{\displaystyle\partial p}{\displaystyle\partial s} ・・・(18)\]
まとめ
- 運動量保存の式の導出の出発点は\(F=ma\)
- 運動量保存の式により、差圧により空気や水が流れる理由を説明できる
いかがでしたでしょうか?連続の式と本内容を理解できた時、空気の流れが見えつつあると思います。ここまで理解できていれば、3次元に拡張された式の理解も簡単です。これをきっかけに流体力学の入口に立っていただけたら幸いです。