流体力学自動車技術

自動車の空気抵抗|車体形状によってどのように\(C_D\)値が決まるのか?

流体力学

 自動車のレビューの記事で空気抵抗の良し悪しの目安として\(C_D\)値で比較されることがあると思います。その数値の物理的な意味を空気抵抗が発生するメカニズムを基に解説します。

1. 空気抵抗の計算式と物理的な理解

 空気抵抗(Drag)は次の式で表わされるように「速度の2乗」「投影面積」「\(C_D\)値」で決まります。

\[D=\frac{1}{2}\rho v^2 A C_D\]

\(D\):空気抵抗 [N]
\(\rho\):空気密度 [kg/m3]
\(v\):速度 [m/s]
\(A\):投影面積 [m2]
\(C_D\):空気抵抗係数 [N]

(1)空気抵抗の式の物理的な解釈

 「空気抵抗は速度の2乗に比例するから、速度を増せば加速度的に抵抗が増える」という解説をよく聞くと思います。これは上式が如実に表しています。では、上式に対する理解をもう少し深めたいと思います。

 \(\frac{1}{2}\rho v^2\)は空気の運動エネルギー(速度エネルギー)を表しており、これに比例することを意味しています。では、なぜ運動エネルギーに比例するのでしょうか?それは、運動エネルギーが圧力のエネルギーに変換され、それが抗力として発生するからです。これに対する理解は、次の記事で詳しく解説しているのでそちらをご覧ください。

 上記の記事をご覧いただくと、\(C_D\)値は流れの状態によって変わるため、速度が上がれば\(C_D\)値も増えるものの、やがてある一定の値に落ち着きます。\(\)速度が小さい場合は相対的に空気抵抗の影響が小さいため、あまり気にする必要がないのです。

(2)空気抵抗を決定づけるのは投影面積と\(C_D\)値

 それでは空気抵抗の大きい車と小さい車で比較してみたいと思います。次の表をご覧ください。

投影面積
\(A\)
[m2]
空気抵抗係数
\(C_D\)
[-]
\(A\)×\(C_D\)
アルファード3.60.331.19
プリウス2.60.250.65
アルファードの値÷プリウスの値1.38倍1.32倍1.82倍

 アルファードはプリウスに対して空気抵抗は1.82倍となりました。ここで注目いただきたいのが、投影面積\(A\)、空気抵抗係数\(C_D\)のどちらもアルファードの方が大きいことです。巷では\(C_D\)値のみに注目して報道がなされますが、この投影面積も重要だという事をご理解ください。

 そして、この投影面積は車室内の快適性に関わるので、いわば自動車の商品性というパッケージングで決まるものです。例えば、「プリウス」をモデルチェンジに向けて開発するにしても、投影面積\(A\)は商品性を理由にほぼ変えられないため、空気抵抗係数\(C_D\)値を下げる空力の工夫を凝らすことになるのです。

2. 車体形状が\(C_D\)値に及ぼす影響

 空気抵抗係数\(C_D\)値は、流れの剥離によるものであることは先の記事で解説しました。それでは、どういう車体形状が空力的に理想的なのかを解説したいと思います。

空力に優れた車体形状から順番に紹介していきます。

(1)クーペ

クーペは一番空力的に優れた形状になります。剥離点を後端にするために、ルーフ以降は緩やかに下に向かいます。

(2)セダン

セダンになるとルーフの少し後ろに剥離点がきます。これはルーフの後ろのガラスが少し斜め下を向いているため、途中までは風の流れが沿うものの途中で剥がれてしまうからです。

(3)ハッチバック・ワゴン

ハッチバックやワゴンになると、ルーフより後方は垂直に近いため、ルーフの後端が剥離点となります。

(4)剥離抑制:ボルテックスジェネレーター(鮫肌)

航空機の技術を流用したもので、ボルテックスジェネレーターというフィンのような突起を設ける場合があります。これは、あえて小さな渦を発生させることで強力な粘性を発生させて、流れを無理やり曲げるものです。すなわち、小さな損失を発生させることで大きな損失を抑制することになるのです。水泳でよく見られる鮫肌効果もこの原理になります。

3. 空力よりも商品性を優先した車両の事例

 空力が悪いと燃費に影響するだけでなく、後端でランダムに渦が発生して操縦安定性を悪くしたりします。しかし、自動車の商品性を考えた場合、空力の優先順位は高くない場合がありますので、その事例を紹介します。

(1)ミニバン

 もはや図で説明する必要もないと思います。ザ「箱」という形状なので、空力が悪いのは容易に想像できますね。しかし、限られたスペースをキャビンの居住空間に割り当てようとすると、自ずと箱型になってしまいます。運転手のためではなく、同乗者のためを考えた商品性と言えると思います。

(2)ラリーカー

 WRCの車両は過去はセダンタイプ(次の写真の青い車:スバル インプレッサWRX STi)がありました。しかし、現在は空力的に不利なハッチバック(次の写真の白と赤の車:トヨタ Yaris)が採用されています。これは、小回りやリアのオーバーハングを短くして生存性*1を高めるため、空力を犠牲にしてでも安定して速く走り抜ける事を選択しているのです。

*1:ラリーではコーナーを曲がる際に車両を横向きにして走るドリフト走行を多用し、この時にリアのオーバーハングが長いと木や岩と接触しやすくなります。

4. まとめ

  1. 自動車の空気抵抗は\(C_D\)だけでなく、投影面積も効きます
  2. \(C_D\)の優れた車体形状はルーフより後方の下がり方が滑らかになっています
  3. 自動車の商品性を優先した結果、空気抵抗を犠牲にすることがあります
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