「暖房はエンジンの熱を使うため燃費を悪化しない」という解説をよく見ます。しかし、これは誤りです。暖房の仕組みを交えて解説します。
1. 暖房の仕組み
暖房の基本的な仕組みは、従来のガソリン車もハイブリッド車も同じです。
暖房はエンジンの熱を使います。エンジン内部のウォータージャケットと呼ばれる隙間を通る際にエンジンの熱がクーラントと呼ばれる冷却液に渡されます。
その後、エンジンから出たクーラントはエアコンユニットのヒーター用熱交換器を通ります。この時、暖房時はこのヒーター用熱交換器に風を当てるようエアコンユニットが気流を制御します。冷房時はヒーター用熱交換器に風が当たらないように気流が制御されます。すなわち、暖房しないときはエアコンユニットを素通りすることになります。
次に、車の前方にあるラジエーターと呼ばれる熱交換器で空気に放熱し、またクーラントはエンジンに戻ります。これが一連の流れになります。
2. 暖房時の車両機器の動作
1で解説したところまでの理解であれば、車が走ってエンジンが燃焼している以上は、暖房しようとしまいと関係ないので燃費に影響がない、という理解になってしまいます。それでは、実態はどうか解説します。
冷却水が十分に温まっていなければ暖房できません。そこで、冷却水を十分に温めるために、より多くの熱を落とすためにあえて燃費が悪い使い方をしているのです。
(1)エンジン回転数を高くする
AT車の場合、冬場の始動直後はエンジン回転数が高めに回っています。回転数を高めるということは、燃料噴射・燃焼の回数を多くすることとなり、エンジンがより発熱することになり、冷たいクーラントを早く温めることができます。
もし、冬場に暖房を使っていてこの現象を確認できたら、試しにエアコン(暖房)をOFFしてみてください。そうすると車のECUが暖房のためにクーラントを早く温める必要がないと判断し、エンジン回転数は従来通り低めに落ち着くはずです。
(2)エンジンの熱効率を落とす
筆者が乗っているディーゼル車はこれが顕著です。ディーゼルは本来、熱効率が高い機関です。すなわち、燃焼時の発熱量も少ないのです。これは暖房の視点では嬉しくないですね。なので、あえて熱効率を落とす作動をさせて燃料を多めに噴射します。そうすると、同じ出力でもエンジンの発熱量が多くなるのです。
(3)ハイブリッド車はエンジンを始動させる
プリウスのようなハイブリッド車はエンジンを止めて電気の力で走ることで燃費を良くします。エンジンを止めるといつまでたってもクーラントは温まらず暖房できません。したがって、エンジンを始動させるしかないのです。ここで、エンジンを発電機として機能させることで、燃費の悪化を最小限に抑える工夫がされています。
3. まとめ
暖房に必要な熱源を確保するためにあえてエンジンの効率の悪い使い方がされて、燃費が悪化します。すなわち、ハイブリッドのようにエンジンの効率が良い(燃費が良い)車ほど、その悪化の程度が強くなるとも言えます。