トヨタに学ぶ原価企画:利益を生むには開発設計の段階が勝負 | Vis-Tech
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トヨタに学ぶ原価企画:利益を生むには開発設計の段階が勝負

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 設計開発の段階で利益は決まります。原価に利益を乗せるような成り行きの価格では市場で勝てません。その原価企画のつくりこみ方について解説します。

1. 販売価格は市場が決める

 トヨタ自動車に限った話ではなく、同じような商品性をもつ製品の市場価格は一緒です(ブランド価格は除く)。ここで言う商品性とは、機能・デザイン等です。例えば、経営が芳しくない自動車メーカーも車両販売価格を下げられないのも同様です(値引きは別)。つまり、価格は顧客が決めているのです。

 余談ではありますが、家電は市場(顧客)ではなく流通が価格を決める格好になっています。自動車業界はディーラー制度で健全性を保っているとも言えます。

2. 販売台数のポテンシャルは最初から決まっている

 まず、市場で売れる車の台数は決まっており、それを各自動車メーカーが奪い合うかたちになります。戦略を立ててそのシェアを奪いに行くことはありますが、結局のところは売れる台数は決まっています。

 次に、トヨタ自動車は国内生産年間300万台を維持と言っているように、1車種でも相当な台数を量産しています。いきなり増産と言われても、ラインのキャパシティを超えてしまうと対応できなくなります。

 つまり、企画台数に基づいてラインが設計されていることから、販売台数のポテンシャルは既に決まっているのです。よく、「新型●●、計画の■倍も受注!」という見出しを見ますが、それだけで良し悪しは判断できません。上記の投資に即した販売を企画された数年分でしっかりと出さなければならないのです。

3. 売れるかわからない中で利益を得るには

 2.ではあえて「販売台数の”ポテンシャル”」と表現しました。販売台数は各自動車メーカーの奪い合いであり、企画台数通りに売れるとは限りません。つまり、最初からリスクを抱えて売り出すのです。

 では、自動車メーカーにとって何ができるのでしょうか?

 「原価低減」です。

 原価低減は設計開発の段階でしかできません。俗にいうVE(Value Engineering)というやつです。

 リスクは何も販売台数だけではありません。経済状況、為替変動など様々。その様な中でも損益分岐点を下げれば、利益を確保できる頑強な経営基盤をつくる事ができます。

4. 原価企画とは

 新型車両の商品企画が通ると、次に「製品企画」と「原価企画」が進められます。商品企画は販売側のマターですが、商品企画と原価企画はチーフエンジニアが主導するバリバリの技術側のマターです。ちなみに、チーフエンジニアは車両開発の統括責任者のため、設計や実験などの技術畑からの生え抜きの方が勤められています。 

補足
  • 製品企画:車両の性能・デザイン等の競合他社と戦うための企画
  • 原価企画:利益を出すための企画

   ※どちらも設計要素がある事に留意ください

 多くの企業では製品企画はしっかりと検討されますが、原価構造はそれほど開発設計の段階でつくり込まないと思います。トヨタ自動車では、開発ステップ毎の会議で、製品企画と原価企画はセットで審議されています。これがトヨタ自動車の利益を生む大きな特徴の一つです。

5. 原価構造のつくり込み

 目標となる利益を得るためには、自ずと目標となる原価が決まってきます。これにミートする原価低減をできるかどうかは、最初が肝心です。例えば、競合他社に勝つために機能をモリモリにすると原価を抑えられなくなるのは目に見えています。また、性能や設計のつくり込みが済んだ段階で原価低減をしようにも、やれることは限られてしまいます。

 これは俗にいう「擦り合わせ」により自動車の開発を進めるが故に一度決めたことはなかなか変える事ができないので、原価低減をするためにはこうするしかないとも言えます。

6. 最後に

 現在、自動車業界は100年に一度の変革期と言われていますが、原価企画の進め方も変えざるを得ないかもしれません。何故なら、EVは部品点数が減りますし、汎用的に使える安い共通部品も現れ、上記のような擦り合わせを必要としないシーンが想定されるからです。トヨタ自動車の原価低減の進め方が必ずしも正解ではない事をご理解ください。

また、以下の書籍では少し違う視点で記載されていますので、ご興味があれば手に取ってみてください。

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