レクサスUXはトヨタC-HRの内装を豪華に仕立てただけか?答えはNoです。これに納得のいく回答をできるように自動車づくりの実態を解説します。
1. プラットフォームとは何のためにあるのか?
高性能化とコストダウンの両立が目的です。一昔前の車づくりは、各車両ごとに行われて専用部品が多くありました。専用で作っていますので性能は突き詰めることはできます。一方で、部品のコストが高くなってしまいます。この部品を賢く共通化して、大量生産による効果でコストを下げようというのがプラットフォーム開発になります。
2. プラットフォームと作るには?
一つのプラットフォームでどれほどの車種をカバーするのかを明確にしなければなりません。まず、セグメントごとに大雑把に車格で括り、そのセグメント内でどれほどの車種という商品群を抱えるかをプラットフォーム開発時に考えます。
(1)セグメント
世間一般万国共通のセグメントという車両の大きさによる分類があります。AからFのセグメントに分類され、Aは小型、Fは大型という形です。例えば、トヨタのプラットフォームで言うと次のように分類されます。
- Bセグメント:GA-Bプラットフォーム
- Cセグメント:GA-Cプラットフォーム
- Dセグメント:GA-Kプラットフォーム
この他にも商品性という観点で、パワトレの駆動方式を一つのプラットフォームに集約したりします。トヨタのFRの車種はGA-Lプラットフォームに集約されています。
(2)車両商品群
ここからは同一セグメント内でどれだけの車種という商品群を構えるか、各自動車メーカー毎に戦略的なアプローチの側面もあります。ここでは、トヨタの最量販であるGA-Cプラットフォームを事例に解説します。
① トヨタ GA-Cプラットフォームの商品群
- プリウス
- プリウスPHV
- C-HR
- カローラスポーツ(ハッチバック)
- カローラツーリング(ステーションワゴン)
- カローラ(セダン)
- カローラクロス(SUV)
- レクサスUX
カローラシリーズに関しては、ボデータイプが4種類ありますので、それぞれ別の車種と捉えても良いと思います。合計8つの車種を一つのプラットフォームでカバーしているのです。
② カバーレンジに必要な考え方
主に車両の商品性に関わる項目は次のように定義されます。これらの対価としてお金を払い、自動車を購入していると思います。
- 意匠(見た目)
- 操縦安定性(ドライバビリティ)
- 機能性(快適な居住空間)
上記に対してプラットフォームの要件に大雑把に落とし込んでみたいと思います。
✓ 意匠(見た目)
見た目に対して背反となることにエンジニアリングで解決することになります。衝突安全性(NCAP)が代表的な事例です。
例えば、ボンネットを低く見せたいのですが、ボンネットとエンジンにクリアランスが少ないと歩行者が衝突した際に頭部に多大なダメージを与えてしまいます。これを歩行者保護と呼びます。
他にも、正面衝突やオフセット衝突、横転時に乗員にダメージが及ばないようにしなければなりません。例えばピラー(窓枠にある柱)を太くすると剛性が高まりますが、見た目に対して大きく影響を与えてしまいます。この骨格の設計をしようとすると車両重量も無視できないため、予め車両重量のカバーレンジを明確にします。
✓ 操縦安定性(ドライバビリティ)
意図したように操作できることが操縦安定性です。カーブを曲がる際のオンザレールであったり、直線安定性であったり様々です。これらに対して、重量・重心が大きく作用します。例えば、車両フロント側に重量物があると完成モーメントが大きくなり、自動車が緩慢な動きになってしまいます。
また、シャシーの性能も大きく影響を与えます。上記の重量・重心に対して、どういうサスペンションやボデー剛性をもたせるのか。ダブルウィッシュボーンやマルチリンク式のサスペンションはスペースを大きく取りますので、プラットフォームの一部と言ってよいです。
さらに、レクサス車用に骨格の剛性を上げる手段として、クロスメンバーやパフォーマンスダンパーを後から追加もしくは構造を強化することもできます。
✓ 機能性(快適な居住空間)
居住空間を快適に過ごすための性能として大きく2つあります。空調快適性と静粛性です。
先ず、空調快適性について解説します。セグメント(車格)に見合った性能、すなわち室内を冷やしたり温めたりする能力の目標値が与えられます。ここには、トヨタブランドとレクサスブランドの目標値がそれぞれあり、レクサスブランドの方が厳しい目標値を与えられます。厳しい目標値を達成するからには種々のアイテムが投入されており、コストが高くなる理由の一つです。
次に、静粛性について解説します。NVH(異音、振動、路面からのゆさぶりなど)という重要な指標があります。この点においてもトヨタとレクサスでそれぞれ目標値が与えられます。レクサスの厳しい目標をクリアするために様々なアイテムが投入されています。わかりやすい事例ですと、シンサレートという遮音材やブチルゴムといった制振材があります。
更に、オーディオ装備、電動シートや内装の質感などでレクサスブランドとトヨタブランドで差別化されているのはご存じかと思います。
3. まとめ
以上でご説明したアイテムを車両に搭載するには、次の観点で検討が必要になります。
- 質量:パワートレインのカバーレンジを超えないか
- 電気電子:W/HやECUのカバーレンジを超えないか
- 搭載:スペースを確保可能か
プラットフォームとしてこれらを受け止めなければならないため、最初にカバーレンジが検討されるのです。例えば、GA-Cプラットフォームで世に最初に投入された車両はプリウスです。しかし、カバーレンジで言うと、指標は色々あるもののレクサスUXの方がレンジの一番隅になるのは想像しやすいと思います。そして、これらの部品を極力共通化することでコストを下げ、致し方ないところは専用部品(例えば意匠に関わる部品)とします。
もし、プラットフォームの土台となるボディーについて勉強されたい方は、以下の書籍がお勧めです。