ミニ四駆の電池ネオチャンプ慣らしの原理と方法|ブレークインのセオリー | Vis-Tech
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ミニ四駆の電池ネオチャンプ慣らしの原理と方法|ブレークインのセオリー

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 電池慣らしによって変わる電池の特性は内部抵抗の低減であり、その結果として電池の出力電圧および電流の上昇が現れてきます。このメカニズムにも触れながら筆者なりの電池慣らし方法について解説します。

※慣らしには正解はありませんので、やり方の一つとしてこういう方法があるものだとご理解ください。

1. 電池慣らしの方法

 充電電池の充電・放電の現象はイオン伝導による化学的な現象です。この現象を妨げるものを内部抵抗と呼びます。この内部抵抗を下げるために「初期慣らし」と「放電慣らし」をしていきます。また、電池管理の基本として「電池の温度管理」についても触れたいと思います。

(1)初期慣らし

 初期慣らしの目的は、いわゆる寝ていた電池を起こすために実施します。最初の3回を0.5C(0.5A)次に30回を1C(1A)でサイクル充電します。文献やインターネットで見ても内部のメカニズムまで言及されてはいませんでしたが、次項で実施する高負荷での放電慣らし前の化学変化のあたりを付ける工程だと筆者は理解することにしました。

「1C」とは、充電電池の容量(Cpacity)に対して同じ程度の電流で充電あるいは放電する際の単位となります。

ネオチャンプは950mAh(=0.95Ah)ですので、1C充電に相当する電流は0.95Aとなります。これを四捨五入して1C≒1Aと考えてください。

 初期慣らしのためには様々な機器があります。筆者はISDTのC4 EVOを利用しています。同時に4つまでできますので、初期慣らしに限らず日常の電池の管理にも便利です。また、充放電中の電圧がグラフで下図のように表示されますので、見ているだけでも楽しさがあります。
 ※後述の様にISDT C4の内部抵抗の表示値の精度はあまり期待できそうにありません

 ISDT C4 EVOにはUSB TypeCで給電する必要があり、それは同封されていません。まだお持ちでなければ購入しましょう。Ankerの製品がコスパでお勧めです。

(2)放電慣らし

 初期慣らしが終わった時点で充放電特性は目に見えて変わりません。ここからは実際に電池に負荷をかけて慣らしをすることになります。一般的に「放電癖をつける」作業です。ダッシュ系のモーターはおよそ4Aの電流が流れるため、それに見合った放電器で慣らしをしていきます。インターネットで多くの方が情報を発信されており、おおよそ10回~20回が推奨されているようです。筆者は放電慣らし15回でベテランの方々と同等の性能を得られたと感じましたので、概ね合っているようです。

 放電器はイーグル模型のクイックディスチャージャーが6本同時に5Aで放電できます。放電電流は変えられませんが、筆者には電流を変えたいニーズもなかったためコスパでこちらを選びました。

なお、上記の放電器には12V電源が必要ですので、別途、ご準備ください。車のアクセサリー電源を模擬した作動確認用のACアダプターで需要がありますので、[AC-DCコンバータ 12V]などで検索いただくと様々なものが出てくると思います。筆者が購入したものは絶版になっていましたので、各自でご準備いただけたらと思います。

(3)電池の温度管理

 慣らしだけに限らず、電池管理の基本として電池の冷却にも気を使いましょう。熱をもつと電池の性能は劣化します。そのためには、こちらのようなファンを使って電池を冷やしましょう。一方で、イオン伝導も温度により特性を持っていて、低温になると出力が下がります。おおよそ、25℃~35℃程度の常温がニッケル水素電池にとって気持ちの良い温度なのかもしれません。

これは、充放電が化学変化によるもので、そういったものはアレニウスの法則(10℃半減則)に従います。例えば、ずっと35℃の温度の電池は、ずっと25℃の温度の電池に対して劣化が2倍の速さで進むことを意味します。

ニッケル水素電池の温度特性

二次電池について(2)ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池 | 音声付き電気技術解説講座 | 公益社団法人 日本電気技術者協会 (jeea.or.jp)

2. 電池慣らしによる効果

 ここまでで「初期慣らし」と「放電慣らし」を完了したネオチャンプの1Cでの充放電特性をグラフにしましたので下図を見てください。放電時には電圧の上昇、充電時には電圧の低下が見られます。これは内部抵抗の低減によるものです。それについて解説したいと思います。

※下のグラフが得られた際の内部抵抗値をISDT C4の表示値で確認したところ、ほぼ差がありませんでした。ISDT C4の内部抵抗値の表示値はあまり参考にならないかもしれません。

(1)内部抵抗とは

 内部抵抗とは、一言で言うと「電池の内部に抱える電気抵抗」です。中学校で習うオームの法則(V=IR)で理解すると、電圧降下(Vの変化)は電流(I)と内部抵抗(R)に比例することを表します。すなわち、電流が多ければ多いほど、内部抵抗低減による差が大きくなります。電流が流れていると内部抵抗により電池の出力電圧(端子電圧)が変わることを意味しています。基準をどこに置くかによって電圧が変わるため、電池の電圧の公称値は無負荷の状態が良く使われます。この時の電圧をOpen Circuit Voltageと呼びます。

 さて、上図を見られた際にはあまり差がないと感じたかもしれません。これは1C(1A)での結果になりますので、4C(4A)ほどの状態では、もっと電圧の差が大きくなります。それがどれほどかを簡単に計算してみます。まず、無負荷状態の電圧を\(V_{oc}\)、内部抵抗による電圧降下を\(ΔV\)、電池出力電圧を\(V_{out}\)、慣らし前を添え字\(1\)、慣らし後を添え字\(2\)とすると

\[
\begin{cases}
V_{oc}-\Delta V_1=V_{out1}\\
V_{oc}-\Delta V_2=V_{out2}
\end{cases}
\]

\[
\begin{cases}
\Delta V_1=R_1 I
\Delta V_2=R_2 I
\end{cases}
\]

上式を変形すると

\[
V_{out2}-V_{out1}=(R_1 -R_2) I・・・(1)
\]

となります。ここで、電流\(I\)=1の時の電池出力電圧差\(V_{out2}-V_{out1}\)をグラフから読み取るとおよそ0.02Vのため、これを式(1)に代入すると内部抵抗の低減量\((R_1 -R_2)=0.02[Ω]\)であることがわかります。では、改めて実負荷 4Aの時の電池出力電圧差を式(1)を用いると
\[
V_{out2}-V_{out1}=0.02×4=0.08 [V]
\]

となります。仮に実負荷時の電池出力電圧が1.2Vだとすると、上記の電圧差は出力電圧のおよそ6.7%を占めることになりますので、実走行では目に見えてミニ四駆の速度差として現れると思います。

パワーチャンプ(アルカリ電池)とネオチャンプ(ニッケル水素電池)では、パワーチャンプの方が遅いというのが世間一般の認識と思います。パワーチャンプの電圧は1.5Vであるのに対してネオチャンプ1.2Vであるにも関わらずです。これは、アルカリ電池の方がニッケル水素電池よりも内部抵抗がおおよそ2倍近くあることに起因しています。

(2)内部抵抗による弊害

 導体(配線、電池など電気的な機器)に電気を流す時に発生する熱をジュール熱と呼びます。電気抵抗をR[Ω]、電流をI[A]とすると熱量をQ[W]は次のように表せます。

\[
Q=RI^2
\]

同じ電流だった場合、内部抵抗に比例して発熱量が増える(電池が熱をもつ)事になります。したがって、内部抵抗が下がると発熱量が抑えられ、電池の寿命もわずかながら延びる事になります。

まとめ

以上により次の2つが電池慣らしのポイントです。

  • 電池慣らしとは電池の内部抵抗の低減のこと
  • 「低電流による初期慣らし」と「高負荷での放電慣らし」で内部抵抗を低減できる
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