流体力学

飛行機はなぜ飛ぶのか?|翼理論を難しい数式を使わずに解説

流体力学

 クッタ・ジュコーフスキーの定理は結論しか言っておらず、それだけ見てもよくわからないと思います。本記事では、その過程にある考え方を理解いただけるように解説したいと思います。

 また、揚力を解説する際の次の2つの説明はよくある間違いです。ここについても本文中で解説していきたいと思います。

  • 間違い1:翼の上の方の空気の流れが速くなる理由は、上下で流れる距離が違うから
  • 間違い2:揚力はベルヌーイの定理では説明できない

1. 翼が揚力をもつのは翼周りに循環が発生しているから

 流体力学の教科書では、循環\(\Gamma=-\Gamma_*(<0)\)があれば、揚力\(L=\rho U \Gamma_*\)が生じると解説されています。でも、いきなり循環といわれてもわからないと思いますので、考え方を解説します。

1-1. 翼周りの循環とは?

 翼が揚力をもつのは、翼周りに空気の循環があるからです。次の図のように、進行方向を左向きとすると、翼の周りに時計周りの渦が起きます。

 循環によって、翼の上のほうが流速が速くなり、これが翼の上下に圧力差を生みます(ベルヌーイの定理)。翼の上の方が圧力が低いので、上に引き上げる力が発生します。これが揚力です。

ベルヌーイの定理は流速の違いで圧力差が生じることを説明しています。しかし、なぜ翼の上下の流速が違うのかを説明するものではありません。流速の違いを説明するのは、循環の発生なのです。

 ここで留意いただきたいことがあります。”循環”という言葉を聞くと「翼の周りに空気がぐるぐる回っているんだな」と思うかもしれません。それは違います。翼の上の流れと、下の流れの速度が異なるということは、そこに「時計回りの気流と相対的な速度が生じている」ことを表現しています。単なる数学的な表現です。 

1-2. 等時間通過説の否定

 冒頭で触れましたように「翼の上の方の空気の流れが速くなる理由は、上下で流れる距離が違うから」という等時間通過説は間違いです。上の方の流れが速いので、むしろ先に翼後端に達します。ここについても理解できるように、もう少し具体的に解説していきます。

2. なぜ循環が発生するのか?

 循環が発生するのは結果の話なので、なぜ循環が発生するかを知りたいですよね。ここがとても重要です。流体力学は、紐解けば質量保存の法則(連続の式)、運動量保存の法則、エネルギー保存の法則のいずれか若しくは組み合わせで説明できます。

2-1. 循環ができる理由:クッタの条件を満たすから

 循環ができるためには、翼周りの流れがクッタの条件を満たさなければなりません。平たく言うと、翼の前縁で上下に分かれた空気の流れが、後縁で”滑らかに合流”することです。滑らかに合流させるために後縁を尖らせているのです。ここで、剃刀のように尖っている必要はなく、十分な曲率半径であれば問題ありません。

というとよく分からないと思います。揚力は圧力で得られるものなので、そこから遡って解説していきます。

2-2. 翼周りの圧力分布

 図の様に翼の上側が負圧に、下側が正圧になっています。翼の上下に圧力差が発生することで揚力が発生します。では、なぜこの圧力差が生じるのかを考えたいと思います。

2-3. 翼周りの流速分布

 翼周りの流速を考えるために、流線を描きました。流線の線密度が密のところは流速が速く、粗のところは流速が遅いこと表しています。ベルヌーイの式から次の原理いたります。

  • 流速が速い:圧力エネルギーが速度エネルギーに変換されている
  • 流速が遅い:速度エネルギーが圧力エネルギーに変換されている

流れの質量保存の法則(連続の式)が成り立っている線を流線と呼びます。

2-4. 翼の上側:ノズルの理論

 流速が音速以下の場合、流路断面積を絞る事により流速が増します。こういう圧力のエネルギーを速度エネルギー(運動エネルギー)に変換する装置のことを、流体力学では”ノズル”と呼びます。

 身近な事例だと、水道につないだホースの先端を指で押さえて面積を絞ると流速が増しますよね?基本的な考え方はあれと一緒です。

 ここで、翼の上側の流れをもう少し観察したいと思います。次の図をご覧ください。翼という壁により流れの面積が絞られる格好になります。急激に流れが絞られることによって、翼の前側の方が流れが速く(圧力が低く)なっているのです。

2-5. 翼の下側:流れが壁に衝突

 ここは、極端な表現をすると流れをせき止める壁です。流れが壁に衝突すると、部分によっては流速がゼロになります。これは、運動エネルギーがほぼ全て圧力に変換された格好になります(粘性は無視)。よどみ点というものですね。

 流れに対して角度をつけることで、このせき止める壁のような働きを得ることができます。迎角と言います。翼の下側の制圧は抗力としても現れます。少ない抗力で揚力を得るには、2-4で解説したノズル効果をうまく利用することになりますので、翼の上の膨らみ形状が重要になるのです。

2-6. 迎角をつけすぎた場合:失速(ストール)

 失速についても少しふれておきます。迎角をつけすぎると次の図のようになり、ノズル効果による圧力エネルギーを運動エネルギーを変換する作用が得られなくなり、急激に揚力が低下します。これを失速と言います。翼の上側の圧力は低いので揚力がゼロになっているわけではありませんが、推力に対して抗力も大きくなることも相成って、飛ぶことができなくなるのです。

2. 渦の直感的理解

これまでの解説で「翼の上側の流速が速くなり、循環が生じるメカニズム」を理解いただけたと思います。それでは、次に、この循環の反作用として現れる渦についても解説したいと思います。

2-1. 翼端渦のメカニズム

① 翼端渦の発生メカニズム

 まず、次のNASAの映像をご覧ください。

翼下面の空気の圧力は上面の圧力よりも高いため、翼の端で圧力の高い下面から低い上面に回り込もうとします。これにより発生する渦を”翼端渦”と言います。次のイラストのイメージです。

② ウィングレットによる翼端渦の抑制

上側に空気が流れ込むという事は、せっかく作った上下の圧力差が小さくなってしまうことを意味します。近代の航空機の翼の先端にはウィングレットという立壁がついており、これが空気の回り込みを抑制しているのです。

2-2. 循環により発生する渦

 それでは翼全体に注目してどのように渦が発生しているのかを解説します。次の図をご覧ください。

出典:日経ビジネス「飛行機がなぜ飛ぶか」分からないって本当?

圧力差により空気が回り込むことでこういった渦が発生するのです。滑走路には翼の周りの循環とは逆向きに流れる渦が残ります。これを出発渦と言います。出発渦は動き出した飛行機の翼端渦につながっていて、理論上は飛行中の飛行機までつながっていて、空気の粘性や大気の動きで消されてしまうまで残っています。

3. 終わりに

 「クッタの条件」であったり「循環」といった話は結果系であり、メカニズムをすべて説明しているとは言い難いものなのです。流体力学は、質量保存の法則(連続の式)、運動量保存の法則、エネルギー保存の法則のいずれか若しくは組み合わせで説明できます。ここを、理解して流れをイメージしていきましょう。

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