蛇口を絞っても流速が増さない理由をエネルギー損失の観点で解説 | Vis-Tech
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蛇口を絞っても流速が増さない理由をエネルギー損失の観点で解説

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 ベルヌーイの式では説明がつかない問題に対して、損失を考慮したエネルギー保存式と連続の式で解説します。

1. 位置の定義

 本問題に対しては次の図の1,2,3のそれぞれの断面における保存式で説明します。

2. よく見る解説の不十分な点

 次の解説をよく見ますが、皆さんはどこに説明が足りないか分かりますでしょうか。

よく見る解説

①→②で流路が絞られて静圧が動圧に変換され水の勢いは増すものの、②→③で流路が拡大されて動圧が静圧に変換されて水の勢いが落ちる

これは一見するとベルヌーイの式と連続の式を考えられているので説明に矛盾はないように思いますが、では「静圧に変換されるのであれば、なぜ①の圧力は③の圧力にならないのでしょうか?」という観点が不足しているので、なんとなくモヤっとされている方もいると思います。この点を説明できるように解説します。

3. 使う保存式

連続の式 \(\rho v A =const.\)より
\[G=\rho_1 v_1 A_1 = \rho_2 v_2 A_2 = \rho_3 v_3 A_3 ・・・(1)\]

エネルギー保存式 \(1/2 v^2 + h + gz =const.\)より
\[\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle 2}v_1^2 +h_1 =\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle 2}v_2^2 +h_2=\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle 2}v_3^2 +h_3   ・・・(2)\]

ここで\(A\)は流路断面積[m2]、\(v\)は流速[m/s]、\(h\)は比エンタルピー[J/kg]、\(z\)はヘッド差[m]になります。今回、位置エネルギーは相対的に小さいことから無視する事にしました。

さて、ここでエネルギー保存式のエンタルピ―\(h\)を内部エネルギーと圧力エネルギーで表現すると式(2)は次の様になります。※このエネルギー保存式の形態の解説はこちらをご覧ください。
\[\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle 2}v_1^2 +e_1+ \frac{\displaystyle p_1}{\displaystyle \rho_1}=\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle 2}v_2^2 +e_2+ \frac{\displaystyle p_2}{\displaystyle \rho_2}=\frac{\displaystyle 1}{\displaystyle 2}v_3^2 +e_3+ \frac{\displaystyle p_3}{\displaystyle \rho_3} ・・・(3)\]
ここで、ベルヌーイの式の考え方では「損失がない事が前提」となり等エントロピー変化(可逆変化)になります。その際のエネルギー変換は、運動エネルギー \(1/2v^2\) と圧力エネルギー \(p/\rho\) の間で行われることになります。でも世の中は甘くなく、そんな理想的なことはあり得ません。損失が発生してエントロピーは増大します。

メモ

①→②で断面積を絞って圧力エネエネルギーを運動エネルギーに変換する装置を「ノズル」、②→③で断面積を拡大して運動エネルギーを圧力エネルギーに変換する装置をディフューザーと呼びます。

4. 蛇口内部流れにおける損失

 世の中に数あるエネルギーの中で熱が一番順位が低いエネルギーの形態です。ですので、この場合は「損失が発生する=熱に変わる」と思ってもらって構いません。すなわち、式(3)のエネルギーのうち、何らかの要因で損失が発生して内部エネルギー \(e\) に変えられてしまうのです。

流体力学における損失の要因は粘性による摩擦です

粘性による摩擦で損失が発生するイメージは次の図です(蛇口の中を拡大しました)。

こういう歪(いびつ)な形状をした流路は粘性による摩擦損失だらけなんですね。式(3)に従って運動エネルギーが内部エネルギーに変換されて、いちど内部エネルギー(熱エネルギー)に変わってしまったからには、外部から仕事をしない限り取り出すことはできないので、流体単独ではもう圧力エネルギーには戻れなくなります。

※粘性の作用には他にも流体間の速度差による摩擦や乱流粘性など色々とありますが今回は割愛します

5. 蛇口出口の流速

 流体解析のセオリーは、流速を解く場合は連続の式、圧力を解く場合は運動量保存の式、熱(温度すなわち物性)を解く場合はエネルギー保存式が使われます。

 蛇口出口の流速もセオリー通りに連続の式で求める事ができます。ここに対しては違和感はないと思います。しかし、今回はエネルギー保存による内部エネルギーの増加を考えましたので、温度に依存する物性:密度 \(\rho\)も変わることになります。今一度連続の式を確認すると
\[G=\rho_1 v_1 A_1 = \rho_2 v_2 A_2 = \rho_3 v_3 A_3 ・・・(1)\]
なので、③の箇所の流速は
\[v_3=\frac{\displaystyle G}{\displaystyle \rho_1 A_1}\]
より、密度\(\rho\)も考慮して求めてください。ベルヌーイでは非圧縮の前提になりますので、慣例的に密度一定で考えられていたと思いますが、今回はそうではないんですね。

話はエネルギー保存式に戻りますが、圧力エネルギーの項って覚えてますか?\(\frac{p}{ \rho}\)です。ここで、今回取り扱う流体は「水」なので、密度って空気に対して約770倍とめちゃくちゃ大きいんですね。分母が大きいということは、圧力エネルギーも大した事ないんです。なので、実際には熱エネルギーに変わると言いつつも、内部エネルギの変化なんて大した事ないんです。

言い方を変えると、気体を取り扱う場合で更に密度変化が大きい(流速が速い)場合はベルヌーイの式を使うと実態と乖離が大きくなるのでご注意ください。

6. まとめ

 ホースの先端を絞ると水の勢いが増す一方で蛇口を絞っても勢いが増さない理由は、粘性による摩擦損失があるから、と言う解説でした。

「圧損ってなんやねん!?」と思われていた方は「粘性損失や」と理解してもらえたら幸いです。

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