スマホや電気自動車に用いられているリチウムイオン電池は温度上昇と共に加速度的に劣化が進行します。一般的に10℃2倍則と言われており、この法則について解説します。
1. アレニウスの式
材料の劣化は分解や酸化、重合などの化学反応により進んでいきます。その化学反応は分子同士の衝突により起こりますが、分子が持つエネルギーが活性化エネルギー\(E_a\)より大きい場合のみ、化学反応が起こります。このような考え方を元に、アレニウスは化学反応の速度を次の式で表しました。
\[k=A e^{-E_a/RT} ・・・(1)\]
\(k\):反応速度定数
\(A\):定数
\(E_a\):活性化エネルギー
\(R\):気体定数
\(T\):絶対温度
活性化エネルギー\(E_a\)はそれぞれの材料固有の値ですので、化学反応の速度は温度に依存することをアレニウスの式は表しています。反応がある一定のレベルまで進む時間(物理量\(P_0\)⇒\(P\)、例:寿命)を\(L\)とすると次のように表されます。
\[\ln P=- k L+\ln P_0 ・・・(2)\]
\(P_0\):物理量の初期値
\(P\):L時間後の物理量
\(L\):反応がある一定のレベルまで進む時間
式(1)と式(2)より
\[L=A^{\prime} e^{E_a/RT} ・・・(3)\]
両辺の対数をとると
\[\ln L=A^{\prime\prime} +E_a/RT ・・・(4)\]
となります。\(A^{\prime\prime}\)、\(E_a/R\)は定数ですので、\(\ln L\)と温度の逆数は一次関数(直線)となることが分かります。
2. アレニウスの式による寿命予測
\(T_1\)の時の寿命を \(L_1\)、\(T_2\)の時の寿命を \(L_2\)とすると、
\[\ln L_1=A^{\prime\prime} + E_a/RT_1 ・・・(5)\]
\[\ln L_2=A^{\prime\prime} + E_a/RT_2 ・・・(6)\]
式(6)から式(5)を引くと
\[\begin{eqnarray}
\ln L_2/L_1 &=& (E_a/R) ( 1/T_2 – 1/T_1 )
\\
&=& (E_a/R) ( T_1 – T_2 )/ ( T_1 T_2)
\\
&=& {E_a/(T_1 T_2 R)}(T_1 – T_2)
・・・(7)\end{eqnarray}\]
ここで,\(T_1\)と\(T_2\)は絶対温度ですから加速試験程度の実験条件ではこの差は大きくありません。つまり、\(T_1 T_2\)という項は通常は常温の2乗と近似してしまっても問題ないということです。そうすると、この式の\({E/(T_1T_2 R)}\)という項は活性化エネルギーが決まれば定数項として扱えるということです。これが2倍則になるためには、
\[(E_a/R)T^{-2}=ln2/10 ・・・(8)\]
となり、\(E_a\)が適当な値でなくてはなりません。そのような\(E_a\)になるという物理化学的な根拠はどこにもありませんが、単にたまたまそのような系が多いのでそのような式が経験式として使われているというだけです。
なお、式(7)と式(8)より
\[\ln(L_2/L_1)=(ln2/10)×(T_1-T_2)\]
\[\ln L_2=\ln L_1 + \{(T_1-T_2)/10\}×\ln 2\]
\[L_2=L_1×2^{(T_1-T_2)/10}\]
となり、10℃2倍則の形になります。
3. まとめ
10℃2倍則は経験則であり、活性化エネルギーの兼ね合いで変わりえます。参考までに、樹脂・ゴム材料は10℃2倍則がよく用いられるようです。